【読書メモ】『サードマン』 ジョン・ガイガー(著)

   

人には守護天使がついている?

海や山での遭難など人が生死を彷徨う極限状態に陥ったとき、突如として幽霊のごとく味方が現れ、絶望の中に希望を与え、励まし、さらには生還のための手助けをする。登山家や冒険家の間ではそんな現象が良く知られているらしく、それを『サードマン現象』と呼んでいるらしい。

これが心霊現象なのか、宗教的体験なのか、あるいは脳の働きなのかは別として、現象として存在すること自体は確実であるらしく、ある脳科学者はこれは脳が生存のために持っている機能の一つであると結論しているほど。本書は『サードマン現象』と呼ばれる事例を多数集めて紹介し、それらの発生条件の考察や、要因についての諸説を述べたものだ。

本書での『サードマン現象』の定義は「誰か自分以外の存在を感じる」というざっくりとした感じになっており、そのせいでカバーする事例が幅広く、その結果考察が発散してしまっている気がしたが、たくさんの体験談はどれも非常に興味深く読めた。(関係ないが登山家にだけは絶対ならないでおこうと強く決意した。)

興味深い点は、せっかくサードマン現象によって無事生還できたにも関わらず、登山家というのは全く懲りない人たちなので数年後には再度遭難して死亡している例も複数あったこと。また、日誌にはサードマン現象が起きたことが記されているにも関わらず、その後遭難死したと思われる事例もあった。と言うことは『サードマン現象』が発生しても必ずしも命が助かるとは限らないし、逆に言えば遭難死したすべての人に『サードマン現象』が一応起きているのかも知れない。となればこの現象は人間が普遍的に持つ脳機能の一つという説がもっともらしく思える。

しかし別の多くの事例では救助隊に発見されるとか、安全な地点に辿り着くとか、生還が確約される条件に入る直前に『サードマン現象』が終了したという。本人としてはまだ危機を脱していないという認識なのに、サードマン現象が終わって失望していたらその後すぐに助かった、という状況だ。また『サードマン』が物理的に手助けしてくれたという報告もある。これらのケースは脳機能では説明できず、『サードマン』は守護天使なのだという説を信じたくなる。

また脳の特定の部位に電気刺激を与えると『サードマン現象』を起こすことができるというマッドな研究結果も紹介されている。そのせいで地磁気のおかしな北極とか南極では『サードマン現象』が起こるのだという。同様に、空気が薄いと脳が誤動作するため登山家には『サードマン現象』が多く発生するのだという説もある。

個人的には『サードマン現象』は上記のようなそれぞれ別の要因で起きており、ひとくくりにはできず、正しく分類してから研究する必要があると感じた。

ちなみに自分も『サードマン現象』とまではいかないが、絶対に遅刻できない重要な日(といっても会議とか結婚式に出るとかそんな宇宙レベルでみればゴミみたいなモノ)にはたとえ徹夜で準備していてうっかり寝入ってしまってもギリギリ間に合う時間に自動的に目が覚めることがよくあった。そういうときは「誰かが起こしてくれた」という気がしていた。(「どうせならあと10分早く起こしてくれよ」ともよく思った。)

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